ReSMについて About

アジアとアフリカの共同研究を通して現代の生活空間に生きる宗教性を理解する。

『宗教性と現代社会空間』ReSM勉強会は、京都精華大学萌芽的研究助成を得て2020年から2023年まで、国内外の研究者の参加を得て比較研究を行います。

本勉強会は同学のアフリカ・アジア現代文化センター(CAACCS)の研究プログラムとして研究活動を進めています。

このブログは、2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大の影響で国内外の行き来が難しくなった現状を受けて、研究に関する情報共有を行うために作られました。

研究概要

本研究のねらいは、アジア、アフリカの宗教、文化について既に研究実績がある研究者たちの共同研究を通し、現代の生活空間という軸を通し、異なる文化圏における宗教性と現代社会のありかたについて明らかにすることである。具体的には、以下三つの研究テーマを設定する。
① 近代化した公共空間における宗教運動や宗教性と社会生活、政治との関わり。
② 家庭内などのプライベートスペース、ドメスティックスペースにおける宗教実践。現代を生きる人間の身体性、宗教性と生活空間の構築。
③ 現代社会x宗教性x空間アプローチへ向けた多分野横断の研究様式とアプローチ方法。

① 近代化した公共空間における宗教性と社会生活、政治との関わり
本研究の初めの問いは、現代社会において、宗教や宗教活動が公共空間における活動や運動を通し、社会や経済、政治にどのような影響を与えているか、ということである。
セネガルのイスラーム教団や、コートジボワールやガーナのエヴァンジェリカル、パンテコスタルなどのキリスト教系の運動に見られるように、アフリカに多くの社会においては、宗教団体が公共空間(パブリックスペース)において大規模な集会や政治活動を行い、社会そのものに大きな影響を与えるような事例が研究対象となってきた(Holder, Dozon, 2018)(1)。欧米や日本の近代社会においては、宗教や宗教性は個人の信条に基づく実践であり、プライベートな空間で実践されるべきである、という一定の了解がある。合理化を推進する近代主義の影響のもと、西洋を

中心とした世界の先進国において、「宗教」は政治・社会制度に直接影響を与えないよう政治空間、公共空間から排除されてきた(長谷千代子, 2013)(2)。しかし、日本の各地で寺や神社がそこに暮らす人々の生活の中心となってきたこと、祭りや宗教儀礼が祭事や伝統として今も多くの注目を集めている事例などからも、「見えないもの」への信仰は、形を変え様式を変えて現代に生きる人々の「パブリックな」生活を作る重要な要素になっている。また、アフリカ・アジアの異なる地域においても、教会やモスク、寺、墓地などは、都市景観や人々の生活に根ざした社会での重要な役割を担っており、その文化資源、観光資源としての価値も評価されている。また、近年世界の様々な国や地域において発展する「スピリチュアル文化」には、環境やエコロジーに関する新たな動きも含まれ(樫尾,2012)(3)、ヨーロッパやアフリカにおける日本の新興宗教の清掃活動や植林活動を通した社会運動への発展(Louveau, 2012)(4)なども指摘されている。
現代の公共空間における宗教性は、異なる文化圏において、文化人類学、社会学、都市学や観光学、ひいては政治学を含んだ多分野における重要な研究テーマであるといえる。


② 家庭内などのプライベートスペース、ドメスティックスペースにおける宗教実践
二点目の問いは、人間の精神性やスピリチュアリティ、宗教性はどのように現代人のプライベートな空間を形成しているのか、という点である。公共空間に対して、プライベートな空間における人々の信仰や宗教実践については、近代社会においては日常生活の一部としてみなされ、一時期の「スピリチュアルブーム」で注目を集めた以外は、未だに広く取り扱われていない(現代のスピリチュアリティに関する研究については樫尾直樹を参照)。それに対し、アフリカやヨーロッパ、その他のアジアの地域では、近年の若年層や若者世代の「宗教回帰」の運動や、新たな精神性を求める運動が社会運動にまで発展し、主要な研究対象として注目を集めている。特に、イスラームテロの影響が拡大してから、テロ組織に走る若年層の心理やプライベートな日常、家庭内の文化的背景などに注目する研究が発表されてきた。ネガティブな側面だけでなく、現代社会に偏在する「新たな宗教空間」は、人々の生活やアイデンティティに根ざし、特に若い世代の教育や社会秩序の形成などにおいて非常に重要な役割を担っている。
これら新たな研究では、個人のアイデンティティーと空間との関わり、空間内における個人あるいは集団による身体表現(礼拝や瞑想、供え物をするときの身のこなしなど)、空間やそれを形作る事物に纏わるライフヒストリーなどを追うことによって、空間そのものの意味やそこに生きる人間のあり方をミクロレベルから明らかにする研究が進められている。こうしたアプローチは、文化人類学、都市学や建築学などの分野からも注目を浴びており、生活空間とは構造的に作られた要素のみによって成り立つものではなく、そこに生きる人が空間に意味を見出し、そこで一定の活動を行うこと、また時間を追ってそこに物語を刻むことによって作り上げられていく総合的な実態であるということが明らかにされてきた(例えば「Désordre domestique 家庭内の散らかり」に関するFiliodの研究, 2003)(5)。定期的に行われる祭事や儀礼、礼拝などの身体行動によって、空間そのものの持つ意味や用途はフレキシブルに変容するものである(阿毛, 2019)(6)。宗教性、精神性という研究軸は、人間とそれを取り巻く空間の構築、およびその定義と未来のライフデザインを考える上でも重要なテーマである。

③ 現代社会x宗教性x空間アプローチへ向けた多分野横断型研究の検討
最後に、本研究では、上記で揚げた二点に関し、多分野横断型の研究、そして比較文化的研究方法の検討、理論構築の可能性について検証する。また、フィールド調査や研究活動の成果として、文字媒体での発表様式(共同論文、共同出版)を目指す他、音声データ、影像や画像データなども積極的に資料として取り入れ、こうした媒体を取り入れた文化資源や空間に関する研究発表様式についても検討する。例えば、宗教的な実践が行われる「空間」においては、視覚的な要素に加え、寺における読経や、イスラームのモスクや礼拝所におけるアザーン(礼拝の呼びかけ)、神秘主義のズィクル(神の名を繰り返しと唱える儀礼)などの音声的な要素も空間を構成する重要な要素となる。これらの多用な要素が人間の身体や精神に与える影響についても、音声や映像などを利用したアプローチ方法が重要である。
こうした多面的なアプローチに関し、本学の異なる学部や人間環境デザインプログラムの専門家にもアドバイスを仰ぎ、新たな研究方法、研究発表の様式について検討するだけでなく、こうした多分野型の研究成果をどのように教育に生かすことができるかについても実践的に検討する。

参考文献

  1. Gilles HOLDER, Jean-Pierre DOZON, Les politiques de l’islam en Afrique : Mémoires, réveils et populismes islamiques (アフリカにおけるイスラ―ムの政治~記憶、覚醒とイスラーム・ポピュリズム), Paris, Karthala, 2018
  2. 長谷千代子, 研究プログラム成果報告・国立民族学博物館『宗教人類学の再創造―滲出する宗教性と現代世界』研究実施機関2013年-2017年, https://www.minpaku.ac.jp/research/activity/project/iurp/13jr161 (2020年6月28日参照)
  3. 樫尾 直樹『文化と霊性』慶應義塾大学出版会, 2012 (研究業績 24)
  4. Frédérique LOUVEAU, Un prophétisme japonais en Afrique de l’Ouest. Anthropologie religieuse de Sukyo Mahikari (Bénin, Côte-d’Ivoire, Sénégal, France.(西アフリカにおける日本の宗教運動の布教~教真光への宗教人類学(ベナン、コートジボワール、セネガル、フランス)~) Paris, Karthala, 2012. (研究業績20)
  5. Jean Paul FILIOD, Le Désordre domestique: Essai d’anthropologie (家庭内空間のちらかり・文化人類学論考), Paris, l’Harmattan, 2003.
  6. 阿毛香絵『セネガルの高等教育機関におけるイスラームのダイナミズム(Les dynamiques de l’islam dans les lieux d’enseignement supérieur au Sénégal)』(博士論文・EHESS)